うつ状態のミス ― 注意力や記憶に関わる脳の働き
うつ状態のとき、「うっかりミスが増えた」と感じる人は少なくありません。
こうした変化は気分の落ち込みだけで説明できるものではなく、注意や記憶に関わる脳機能の変化が関係していると考えられています。
精神医学では、注意力や記憶、思考速度などの働きをまとめて認知機能(cognitive function)と呼びます。うつ状態では、この認知機能が一時的に低下することが知られています。
🌻 まず重要なのが注意機能の低下です。
注意とは、必要な情報に意識を向け、それを一定時間維持する能力です。
この働きには主に前頭前野(特に背外側前頭前野)と前部帯状皮質が関わっています。
前頭前野は、判断や計画、集中などを担う重要な部位ですが、うつ状態ではこの領域の活動が低下することが神経画像研究で報告されています。その結果、注意を持続する力や情報処理の効率が低下し、作業中の確認漏れや聞き漏らしが起こりやすくなります。
🌻また、注意力の低下はワーキングメモリ(作業記憶)の働きにも影響します。
ワーキングメモリとは、短時間情報を保持しながら処理する能力であり、例えば
・指示を聞きながら作業する
・数字を覚えながら計算する
といった日常的な作業で使われています。
この機能も前頭前野のネットワークに依存しているため、うつ状態では容量が低下しやすく、
・途中で何をしていたか分からなくなる
・確認しようと思っていたことを忘れる
といった現象が起こります。
🌻さらにエピソード記憶にも影響が出ることがあります。
エピソード記憶とは、出来事を時間や場所とともに記憶する能力で、主に海馬と内側側頭葉が中心的役割を担います。
慢性的なストレスやうつ状態では、ストレスホルモン(コルチゾール)の影響によって海馬機能が低下する可能性が指摘されています。そのため、
・さっきやった作業の記憶が曖昧
・物をどこに置いたか思い出せない
といった体験が増えることがあります。
🌻 うつ状態の記憶の問題は「記銘」の問題であることも多い
うつ状態の記憶の問題の多くは、記憶そのものの障害というより「記銘(覚える段階)」の問題と考えられています。
つまり、情報が脳に十分入力されていないため、後から思い出せないという状態です。
注意が別の思考に向いていると、そもそも情報が適切に処理されません。そのため、
「覚えたはずなのに思い出せない」
という感覚が生じます。
この背景には、うつ状態でしばしば見られる反芻思考も関係しています。反芻思考とは、
「なぜうまくいかないのか」
「自分はダメなのではないか」
といった思考を繰り返し考えてしまう状態です。
こうした思考は注意資源を内的な思考へと引きつけるため、外界の情報処理が低下しやすくなります。その結果、仕事や日常生活の中でのミスが増えやすくなります。
これは、記憶力が完全に低下しているというより、注意と記憶の連携がうまく働いていない状態と考えることができます。
うつ状態でミスが増える主な要因
うつ状態でミスが増える背景には、次のような複数の要因が関係しています。
・前頭前野の機能低下による注意力低下
・ワーキングメモリの容量低下
・海馬機能の変化によるエピソード記憶の影響
・反芻思考による注意資源の消耗
・思考や判断の処理速度の低下
・睡眠障害
・自己批判による不安の増幅
つまり、ミスが増えるのは単に「気をつけていない」からではなく、脳の情報処理システムが一時的に疲れている状態と理解する方が精神医学的には自然です。
うつ状態が改善していくと、注意力や記憶などの認知機能も徐々に回復していくことが多いとされています。
もしミスが増えてつらい場合は、「頑張りが足りない」と考える前に、心身の状態を見直すことが大切です。
注意力の低下は、うつ状態の重要な手がかりの一つでもあります。早めの相談が、結果的に仕事や生活を守ることにつながると考えられます。
お困りのことがあれば当院にもご気軽にご相談ください
当院では、通院中の方に専門職による無料相談も行っております
http://xs577446.xsrv.jp/sancha/feature/#feature01
Instagram:https://www.instagram.com/sanchakokoro/
医療法人社団RIC RICメンタルクリニック三軒茶屋
三軒茶屋駅から徒歩3分の心療内科
「”まだ大丈夫”がつらくなる前に。」話すだけでも、少し前に進める日があります。
当日予約受付/東急田園都市線・世田谷線よりアクセス良好/地域での回復を/専門医、女性医師在籍/専門職の面談/就労支援
